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SferaBar SATONAKA〜デカダンスな夜
20060725_142335.jpg


時計はやがて日付が変わることを告げていた。バーテンダーが黙って空いたグラスを下げる。男は言った。


「あ、水割りでお願いします」


「それ以外なにがあんねん」


その行方を誰一人気にすることもない会話が飛び交う中3杯目のグラスが供され、いささか鈍くなっていたラフロイグのピート香が新しく漂う。ほどなくして隣の連れの男の竹鶴も空いた。対照的なまでにスマートなやりとりで新しい竹鶴の水割りが差し出された。


隣では女がひとり、猛烈な眠気に耐えながらジンをなめている。トム・ウェイツを彷彿とさせるようなその光景はバーの雰囲気にもよくなじみ、店内は奇妙な一体感に覆われていた。


「そういえばね」


本当はずいぶん前から思い出していたのにいかにもたった今頭に浮かんだかのごとく男は話し始めた。


「Mがね、最近どうしてるんやろと思って連絡してみたらいま長崎らしいんですよ」


「長崎?!東京じゃなかったの?」


「いや、本社は東京なんですけどね、出張?常駐?とにかくこないだ突然カステラがお中元で来て。」


「ベタやな〜」


梅雨の京都の蒸し暑さを忘れるような乾いた笑いが飛び交う。会話の中身なんてどうだっていい。酒と言葉さえあれば。


「ちょっとごめん」


連れの男が席を立った。たぶんトイレだろう。


一人残された男は、バーとしては本格的に過ぎるほどに充実したフードメニューを手に取った。パスタやサラダ、アラカルトなど、いかにも美味しそうなメニューが揃う。悩んだ挙げ句、男は旬の魚と野菜のパスタをオーダーした。


若干水割りが減るペースが落ちてきた。隣ではバーテンダーと女がなにか話し始めた。なんの話題なのかはよく聞こえない。だが、それでもまったくかまわないのだ。人が語らう言葉が確かにそこにあるのだから。


いつの間にか連れの男がトイレから戻っていた。しばらく沈黙が場を支配する。数回グラスを傾けたところで、男が口を開いた。


「しかしHさん悪いですよね〜」


「チョイ悪とかじゃなくてほんまに悪いってことに最近気付いてね」


「え〜なにがですか〜でも確かに悪いですよね」


なぜ悪いのか、なにが悪いのか、互いにそんなことは気にしない。とにかく悪い。理由がなくてなにが悪い。みんなおまえが悪いんだ。なかば悦楽な自虐に浸る希有な時間。本当は、誰も悪くない。


薄闇の店内。ソリッドな雰囲気。スポットライトがカウンターを幻想的に浮かび上がらせている。煙草に火をつける。煙が細く搾られた光に吸い寄せられるかのように舞い上がる。しばしその行く先を無言でみつめ、あたかも煙と共に言葉まで吸い寄せられたかのような感覚に陥る。


「これうまいよ」


バーテンダーが一言添えて待ちかねたパスタを出してくれた。幻想的な煙草の煙から、意識は一気に食欲へ向かう。スズキのほくほくした身とシャッキリした野菜がパスタによく絡んで美味しい。


「ん、まじうまいですねこれ」


ゆっくりと、味わいながら食べる。スズキと野菜とパスタをバランスよくフォークで絡め取り、崩さないように口に運ぶ。その様子を眺めていた連れの男が言った。


「バーでこんな時間にパスタ食べるってなんだか退廃的よね」


たしかにそうかもしれない。いや、根拠は相変わらずわからない。でも、たしかにそんな気がする。


「それってパスタだからですよね。特にミートソースとか。いや、究極はナポリタンかな」


「え、そうなん?」


「ナポリタンは絶対に退廃的ですよ。スズキと野菜のパスタでもいいけどやっぱナポリタンでしょ。どんぶりとかじゃあかん」


「バーでどんぶり喰ってたら、退廃的っていうよりわびしいよね」


「それはいえる」


言葉がさらりと飛び交う。どこにひっかかることもなく。ごく自然に体に入ってくる。「バーでパスタは退廃的」。男たちにとってはもはや疑いようがない事実だ。


「ところで退廃的ってアナーキーでしたっけ??」


「アナーキー??えーと、違うんじゃないか」


「え?アナーキーってなんでしたっけ?」


「アナーキーて無秩序とか無政府とかそんなんやったやろ」


「あーそっかーじゃあ退廃的はなんでしたっけ?」


「デカダンとかデカダンスとかそんなんじゃなかったか」


「そうやそうや思い出した」


もはや会話がアナーキーだ。パスタをデカダンスに食べ、アナーキーな会話に耽る。バーテンダーがふたりのボトルを取り、自分用の酒を作り出した。


「どっちも均等に減らしておかないとね」


目の前に3つのグラスが並び、2回目の乾杯をした。酒が、さらにうまくなったような気がした。


今夜、このバーでなにが産み出されたのか。乾いた笑いと浮遊する言葉の中で、男たちは果たして前進したのか、後退したのか。3人がそれぞれのグラスを空けた後、男たちは揃って店を出て、エレベータに乗り込んだ。中はグリーンの照明で照らされていた。


「これやと目に優しくていいですね」


「ああ普通の蛍光灯やと急に現実に引き戻されるみたいな感じするもんね」


デカダンスな夜が終わりを告げる。現実は、もうすぐそこまでやってきている。


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SferaBar SATONAKA
住所/電話番号:秘密/秘密
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| 2006.07.25 Tuesday | 音羽屋的言葉 | comments(3) |
COMMENT
この筆者にはどんなキャラをかぶせれば良いのだ。。
バーに居付いた黒ネコか。

何にせよ映像化を強く希望する巧技なストーリーだ。
| 自由 |
この意味のなさが我ながら好き。
| 音羽屋 |
マスター 豊川悦司
隣の女  真木よう子

上記のキャストは決まったが、男と連れの男は演じるのが難しいぞ。













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